*フクロウと出納帳*

しあわせのためのお金の話

センセイの鞄、レビュー。「育てるから育つんだよ」

江國香織さんの小説がとても好きなんですが

 

江國香織さんが好きな人におすすめと言うことで

川上弘美さんの本を読んでみました。

 

川上弘美さんの代表作

センセイの鞄

 

38歳の“ツキコさん”と

高校時代の国語の先生で、今は70代の“センセイ”との

恋愛?小説です。

 

このお話、

まずね、若い子は読んだらだめな気がする。笑

 

30代になったら読んでもいいと思う。

というか、30代以上じゃないと

“センセイ”との恋の感覚が理解しにくいと思う。

 

わたしは、読んでも大丈夫なほど年をとってました。笑

 

だって、70代の先生と大人になって再会して

そこから恋愛になりえるかって。

とてもじゃないけど20代では想像できない領域だと思う。

 

30代になってくると、恋愛には年齢の概念がないことに気付くこともあるので

“センセイ”という“人”を好きになるってこと、わかるようになると思う。

 

恋愛?小説といっても

お話はゆるやかに、穏やかに

ツキコさんとセンセイの日々が流れていくもので

 

その日々を追っていくと

ツキコさんが「センセイ」と呼びかけて

センセイが「ツキコさん」と呼びかける。

 

それがとても心地よくて、とても印象に残ります。

どちらも心からの優しい響きがするのです。

 

 物語後半になってやっと

ツキコさんがセンセイを好きなんだと自覚していきます。

 

センセイの気配は、センセイのかたちをしている。

凛とした、しかし柔らかな、センセイのかたち。

わたしはその気配をしっかりと捕らえることがいまだにできない。

 掴もうとすると、逃げる。逃げたかと思うと、また寄りそってくる。

 

こうして好きな人の“気配”を感じるときの感情は

どこか少し息苦しくて、喉元まで感情が溜まる。

 

溜まって、溜まって、いよいよ苦しくなって

人は好きな気持ちをうまく扱えなくなってもがくようになる。

 

ツキコさんのセンセイへの想いも

すんなりとはうまくいかないのです。

 

ゆえに、センセイのことを諦めようとします。

 

育てるから、育つんだよ。

 

亡くなった大叔母が生前よく言っていたらしいことば。

 

大事な恋愛ならば、植木と同様、追肥やら雪吊りやらをして、手をつくすことが肝腎。

そうでない恋愛ならば、適当に手を抜いてやれば立ち枯れさせることが安心。

 

そのことばを思って

センセイと会わなければ

想いは枯れていく、と。

 

そーなのよね。笑

 

一生ずーっと好きな気持ちに押されて

息苦しいわけじゃないんですよね。

必ずどこかで

想いは枯れていくものなんですよね。

 

ただ、手を抜くってことすら

苦しんでるときはうまくできないものです。

何度も自分のプライドを立てるべく

理性を言い聞かせていても

好きな人の声で、気配で、記憶で

想いは育ってしまう。

 

会わないと決めたって

会いたいと思ってしまう。

 

手を抜けないほど想ってしまうから

どんどんと育ってしまうし、

手を抜けるようになる頃には

想いが枯れていっているのだと、

逆説的に思うのです。

 

育てるから、育つんだよ。

愛情を注いでしまうのです。

それが、人を好きになることです。

 

 

一冊通して、

決して恋愛のドロドロじゃなく

優しい空気の中でツキコさんとセンセイの恋愛は流れていきます。

 

しかしね、

70代の男の人を恋愛として好きになるって

なかなか難しいお話です。笑

 

本日もお付き合いいただき

ありがとうございました。