*フクロウと出納帳*

しあわせのためのお金の話

“スロウハイツの神様”レビュー。言葉は呪いになって、未来の自分を縛る。

3月の楽天スーパーセールのときに

読んでみたかった辻村深月さんの本を買っていました。

 

楽天スーパーセールで買ったもの。2017年3月。 - *フクロウと出納帳*

 

スロウハイツの神様

本のカバーがすごくステキ。

 

お話の内容としては

スロウハイツというアパートに若きクリエイター達が共同生活しているのです。

 

話の始まり方は

「チヨダ・コーキの小説のせいで人が死んだ」

 

主な登場人物はこちら。

①赤羽環:スロウハイツのオーナー、人気脚本家

②狩野壮太:漫画家の卵

③長野正義:映画監督の卵

④森永すみれ(スー):正義の彼女、画家の卵

⑤千代田公輝(チヨダ・コーキ、コウちゃん):大人気小説家

⑥黒田智志:チヨダ・コーキの編集者

⑦円屋伸一(エンヤ):漫画家の卵

⑧加々美莉々亜:チヨダ・コーキが好きな自称小説家

 

上下巻になっているんですが

上巻はほぼほぼ、登場人物の紹介や関係性なんかがつらつらと描かれています。

下巻になって、少しずつ話が動き出していって、最後の最後の章で

いろんな伏線や、思いや、せつなさが一気に濃縮されて開放されて

読後感はさっぱりすっきりーーーでした!!

 

読む前から

伏線回収がすごい!とレビューを読んでいたので

楽しみにしていたんです。

 

実際、わかりやすい伏線もあったんですけど、笑

えぇ!?って驚いたものや

あーそうだったんだー!って嬉しくなるものまで

 

たくさんたくさん

散りばめられていました。

 

伏線回収って

きれいにやってもらえると

読み心地がいいですよねー!!

 

そして、読んでいく中で

あぁ、ステキだなぁと思ったところ。

挙げていきます。

 

このスロウハイツのオーナー、環(女の子)なんですが

とっても気が強いんですね。

自分のプライドや、過去の出来事や、守りたいものの為に

人一倍気を張って、がんばり続けている。

 

その環と、高校時代からの唯一の親友エンヤ(男の子)。

一緒にスロウハイツで暮らしていく中で

どんどん売れっ子になっていく環と、

漫画家になりたいのになかなか芽が出ないエンヤ。

エンヤは次第に環に嫉妬をし始めてしまい、

スロウハイツを出ていってしまうのです。

 

そして、出ていってしまう日、

エンヤは環に言うのです。

「環ちゃん、俺、絶対やってみせるから。やりたいことを胸張ってできるようになったら、また、ここに帰ってきてもいいかなぁー!?」

「俺は絶対、君に勝つ!俺、絶対一人前になって…」

 

そう叫ぶエンヤに対し、

環は「何も聞こえない」と言ってとりあわない。

 

エンヤが去っていってしまった後

環は狩野にこう言うのです。

 

「自分の言った言葉っていうのは、全部自分に返ってくる。返ってきて、未来の自分を縛る。声は、呪いになるんだよ。エンヤは言っちゃったよね。私に勝つって。それは無理だ。だからもう、ここには絶対帰ってこられない。」

 

環の言ったこの言葉。

声は呪いになって、未来の自分を縛る。

 

言った方がいいことも、もちろんあると思うのです。

だけど、この時エンヤは、自分の力の無さから憤りを感じて

環の元を去っていくのです。

 

そして、最後、ホントは大好きな環に伝えたかったこと。

環に分かってほしかった。知ってほしかった。認めてほしかった。

そういう思いが混じってしまった

決意を叫んだのではないのかと思うんです。

 

その言葉には

環が言うような、自分の声に出した言葉で、自分を縛ってしまうものだったんだと、たしかにそんな気がしました。

 

そして、もうひとつ。

 

物語の後半。

環はアメリカに行くことを決意します。

さらにいい脚本を書けるように学びたい、と。

 

それを狩野に告げるシーンで

環は自分がアメリカに行ってしまったあと

桃花(環の妹)とコウちゃんをよろしくね、と狩野にお願いするのです。

 

「私がこんなこと言う筋合いは何もないんだけどね。最近思うの。私はずっと、いろんなものを守らなきゃって思って生きてきたけど、本当はずっと守られて、支えられてたんだってことを思い知る。特に桃花はね。あの子がいなかったら、私は多分、今日までこの姿勢で生きてこられなかった」

 

続けて話します。

 

「かっこつけたいっていう考え方は、それを見ている誰かの目線なしにはあり得ない。私はずっと、桃花の前でお姉ちゃんをやり続けたからこうなれた。」

 

強くいられるのは、守りたいものがあることに、守られてきたからなんです。

その存在があったからこそ、強くいようと居続けられるんです。

 

きっと、本当に強い人って

こういうことなんだと思うんです。

ドンピシャリと心にハマった言葉でした!

 

辻村深月さんの本。

 

上下巻の大ボリュームだったのですが

読み終えることが出来ました。笑

 

わたしが好きな江國香織さんは

読んでいる側に情景や心情を読み取らせる文章を書き

その自分勝手な余韻でじわーーーっとあと引く楽しみがあるのですが

 

辻村深月さんは

読み手で読み取る作業を必要とせずに

すべてをきちんと、伝えてくれる文章でした。

だから、読後感がすごくさわやか、すっきり。

 

これは個人の好みの問題なのですが

わたしはやっぱり、少しどろりとしたものが残る

江國香織さんのが好きかなぁ。

 

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よっしゃ。

次はなにを読もうかな!笑

 

本日もお付き合いいただき

ありがとうございました。