*フクロウと出納帳*

しあわせのためのお金の話

泳ぐのに、安全でも適切でもありません。

さて、

前回紹介したBIRTHDAYBUNKO。

 

3月21日が誕生日のわたしは

江國香織さんの

泳ぐのに、安全でも適切でもありません。

でした!

 

この本は10編のお話が入っている短編集。

 

みごとに全部、女の人の話。

 

短編集なので

さらっ読めちゃいますが、

どれもどろっとした感情だったり、一瞬だったりを描いています。

 

勝手にですが、

わたしが好きだった話ランキング!にしてみます。

あと好きなフレーズを。

 

第10位

愛しいひとが、もうすぐここにやってくる

この短編集の中で一番最後に入っている話です。

もしかしたら、わたしがただ単に

読み疲れて流し読みしてしまったせいかもしれませんが、苦笑

あまり印象に残らなかったです。

 

四十代の不倫のお話。

 

毎週月曜日の夕方に、ホテルで会うふたり。

たとえば、月曜日以外の日に会ったとしても

ホテルには行かない。

だって、それは“習慣”だから。

 

私が好きな男が妻と別れないのは、

そこに帰るのが彼の“習慣”だから、だ。

毎日、同じバスに乗り、仕事場へ向かうように。

雑居ビルの三階にある仕事場まで、階段で登るように。

 

 『私の大好きな男は―葉巻と、ブリジット・バルドーの映画と、競馬と家族と猫と私を愛している。』

 

第9位

十日間の死

これも最後から2番目に入っている話で

読み疲れ感が…。笑

この短編集の中では長めのお話。

 

フランスのボルドー

17歳のわたしと、アメリカ人で35歳のマークが過ごす9ヶ月。

それを丁寧に思い出す10日間には、もうマークはいない。

たった9ヶ月であたしたちはたくさんのことをしすぎたのかもしれない。

 

『それであたしたちはもっと急いで、もっとたくさん、もっと息もつかずにくっついたり笑ったりしなければならなかった。ハーレーで国道をぶっとばすときの、何万倍ものエネルギーで。』

 

第8位

サマーブランケット

 40代の独り身の女の人と、仲良くなった大学生カップルの男の子。

簡単に言っちゃうと、海辺でキングサイズのずっしり重いサマーブランケットに

二人でくるまっちゃう話。

 

いやいやいや。

ちょっと現実離れしすぎちゃって。笑

わたしは20コも年下の男の子なんて

想像も妄想もできません。笑

 

『私は腕時計をみないように気をつけた。空はもう青くないが、まだ十分にあかるい。ここにきて、たいして時間はたっていないだろう。その短さを、知りたくはなかった。』

 

第7位

動物園

母子が雨の日に動物園へ行く話。

 

夫は子供が生まれると、馴染むことができないと言った。外泊するようになった。勝手に安アパートを借りてしまった。

私の母は「あなたたちはどうかしている」と言う。

 とってもいびつで、それでも愛していて、幸福な日常。

 

主人公の女の人のモヤモヤした感じが、ホント雨の動物園のようで、じっとりしていました。“どうかしている”としても、それでいい、のでしょうか。

 

『樹は、そこにいるどんな動物よりも奇妙な生き物に見えた。それは私と夫の理解を超えている。私たちが出会って愛しあい、そして授かった奇妙な生き物。』

 

第6位

ジェーン

不倫相手についてニューヨークまで来た。

そこでひと夏だけ、ジェーンという女の子とルームシェアをする話。

 

ジェーンの人物像がまさに会ったことがある人のように思えて、その対比で私のどこか冷めた目線で話は進みます。

 

似ているところがひとつもない私とジェーンの、おそろしく暑い夏に起こる一コマ。

 

 『ジェーンは私を抱きしめて、いいのよ、と、言った。私はあなたを妹のように思ってるんだから、と。私はジェーンを姉のように思ったりしたことがない。かつても、いまも。』

 

第5位

うしなう

おばちゃん4人がボーリングをしている話です。

それぞれ、こんな人っているし、女同士の集まりってこんな感じと思ってしまう、日常を切り取ったもの。

 

女同士のいじめや、夫の浮気疑惑なんか話しながら、クスクスと笑い自分たちはそんな場所にいないと確認し合う。

そして、四人共がお互いのことがあまり好きではないのだ。

 

『結局のところ、私たちはみんな喪失の過程を生きているのだ。貪欲に得ては、次々にうしなう。』

 

第4位

りんご追分

まずね、りんご追分って何だろうって。

わかんなかったんです。汗

美空ひばりさんの歌なんですね。

 

結婚もせず、働きもしない男と10年同棲しているあたしは、夜の飲み屋で働く。

10年、長すぎた時間はもうよくわからなくなっている。

ふと、明け方仕事を終えて帰る時に、公園からりんご追分のトランペットが聞こえてくる。それに、泣いてしまう。号泣、と言っていいほどに。

 

なんか、この感じ。

だらしなく過ぎて行ってしまう毎日に、無防備に胸に染みてしまった感じ。

もしかして、誰でも一瞬気が緩んでしまったらそういうことってあるのかも。

 

『あたしには、物事がもうよくわからなくなっている。もともと、あまり頭がいい方じゃないのだ。ただわかっているのは、これが二人でつくってしまった生活だということと、もしもいま智也がいなくなったら泣くだろうということだけだ。』

 

第3位

泳ぐのに、安全でも適切でもありません

これ、題名になっているお話です。

おばあちゃんが肺炎で亡くなりそうになり、私と妹と母親で病院に行ったときの話。

 

私は、無職で酒のみで散らかし屋で甘ったれなダメ男と付き合っていて、

妹は、友達だけど付き合っている、出たり入ったりしている男がいて、

いい男を引き当てたのはママだけだったわね、と言う母親は、20年前に私達を残して父親は死んでしまった。

 

おばあちゃんが亡くなりそうで、悲しいかと思いきや、この親子の雰囲気がすごくリアルで、わたしも母親のことを思い出しました。

 

本の題名だけあって、読み取れば読み取るほど何かを感じられるお話。

 

『いつかアメリカの田舎町を旅行していて見た、川べりの看板を思いだした。遊泳禁止の看板だろうが、正確には、それは禁止ではない。泳ぐのに、安全でも適切でもありません。私たちみんなの人生に、立てておいてほしい看板ではないか。』

 

第2位

うんとお腹をすかせてきてね

単に、たくさん食べて、たくさん愛し合うお話なんですが、なんにせよそれだけのことを、これだけ美しく書けるのがすごい。

 

深く考えれば、目一杯食べるこの食事は、自分をつくり、愛する人をつくっている。

毎日、同じものを食べているあたしたちのからだは、おなじものでできているはず。

いやぁ、深い!

 

 『あたしたちは肉を食べ、血をつくり骨をつくり筋肉をつくり皮膚をつくり、それを使って愛し合う。』

 

第1位

犬小屋

もう、ね。シュール。笑

シュールすぎて、たまらない。笑

 

かつて兄の妻だった人のことを、私の夫が好きになっているような妄想に苦しむ。

ほんとにそうなのか、ただの妄想なのかわからないけど。

大好きすぎて、たくさんの要求をしても、夫はすべてうん、と答える。

それに夫は苦しくなったのか、犬小屋に寝袋を持っていき出てこなくなってしまった。

 

『ね、ここに来るとき庭のチューリップをみた?満開なの。チューリップってばかみたいな花ね、かわいそうになる。

―日があたっているからってあんなにそっくり返って、くるったみたいに開ききっちゃって。

―男の人が犬小屋で寝るからって、そんなに気を揉むことないわ。チューリップみたいになっちゃうわよ。日なんてすぐに翳っちゃうんだから。』

 

 

日常って

ほんとに何気なく何も残さず過ぎていくのに

ちゃんと丁寧に切り取ってみれば

これほどまでに渦巻く感情が潜んでいて

それは時に小さくダメージを残したり

逆に愛を感じたりする。

 

わたしも

出来るだけ触角を伸ばして

小さななにかを、できれば幸せを

感じながら過ごしたいなと思いました。

 

 

天体観測よりも、ダンデライオンやKが好きなような

前前前世よりも、会心の一撃や億万笑者が好きなような

そんな感覚のわたしのランキングでした!

 

本日もお付き合いいただき

ありがとうございました。